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2015.04.30

暮らしかた冒険家 meets

volume 8竹内昌義×鈴木菜央×暮らしかた冒険家

  • Text石神 夏希
  • Photo伊藤 菜衣子

「DIYオフグリッドは、自分でつくる未来」〈後篇〉

これまで約1年間に渡り、「わるい“つながり”を減らして、よい“つながり”を増やしていく」人や暮らしを紹介してきたOFF-GRID LIFE。 今回は、東京・虎ノ門にあるリトルトーキョーで。建築家の竹内昌義さん(みかんぐみ)、green.jp編集長であり『わたしたち電力』の言い出しっぺである鈴木菜央さん、そしてOFF-GRID LIFEのプロデューサーである暮らしかた冒険家の対談です。 ちなみに竹内さんと菜央さんは、2015年2月に開催された「リノベーションスクール@北九州」セルフリノベーションコースで、ユニットマスター(講師)としてタッグを組んだ仲。約20人の受講生たちと一緒に、古い長屋を3泊4日でDIY断熱改修しました。そして2015年2〜3月には、「グリーンズの学校」で「みかんぐみ竹内さん、パッシブハウス・ジャパン森みわさんと学ぶエコハウスDIYクラス」も開講。丸一日使って、古い銭湯をDIYエコ改修しました。 どちらも限られた時間と予算での断熱改修でしたが、果たしてその結果は……? 今回の対談は、そんな話から始まりました。

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ほしい社会は自分でつくれる

菜衣子:社会を変えようとする反対運動って世の中にいろいろあるけど、そういうのって私は無力感に襲われるんだよね。DIYは、変わっていくことが自分の手の中でコントロールできるところがいい。

ジョニー:『OFF-GRID LIFE』でも、実は再生エネルギーの話はそんなにしてこなかった。取り上げてきたのは、地域通貨食べものの自給タイニーハウスエコハウスソーラー発電でオフグリッドのオフィスをつくる話ピザ窯を都会でやってみる話

菜衣子:そこ(再生エネルギーの話)だけやっても、たぶん目指しているような社会はいつまで経ってもやって来ないんじゃないかな、と。「お金ってそもそも何よ?!」とか、「家って寒いのが普通なんだっけ?」とか。それまで他人事だとか当たり前だと思っていたことが、もし違うんだとしたら? と考えてみる。暮らしの「なんで?」とか「こうしたらいいんじゃないの?」ということについて考えるところから、人ってどんどん変わったりクリエイティブになったりするんだな、という自分の体験があって。

竹内:たぶん人は、言われても変わらないんだと思う。さんざん言うわけですよ、「エコハウスいいよねえ」って。でも自分の家をエコハウスにするか、といったら、行動しないんだよね。頭ではわかっているけど、自分の問題にはなっていない。でも「みんなでDIY断熱したら暖かくなった」というのは完全に自分の問題で。

菜央:DIYは、自分が主人公だからだと思う。エコハウスを見に行っても自分ごとになっていない人は「エコハウス、すごい」で終わっちゃう。DIYというのは「あなたが主人公だよ、あなたの話だよ」というのが前提なので、みんなで一緒にDIY断熱をしてみて「うわ、こんなに違う」って実感すれば、今度は自分の家をこうしてみよう、と考え始める。

その状態でエコハウスを見に行くと「おお!これは真似できそう」「ここまではいかないけど、これはできるな」とか「このくらいお金をかけるとこんなことになるのか」とか。「おまかせ社会」から自分が主人公の社会へ、多くの人が、「自分が動くことで自分のまわりの社会がつくられているんだ」という感覚で生きている社会へ。それが、一言でいうと「DIY」なのかなって。DIYはあらゆるジャンルに共通する話で、エネルギーもそのひとつにすぎないんだよね。

いま、歴史の転換点に立っている

菜央:今、化石燃料にすごく依存した社会をつくっているじゃない? それって、たとえるなら銀行預金の元本に手をつけて使い込んでる状態なんだよね。預けているお金の利息だけで生きていければ全く問題ないんだけど、このままだと元本が尽きて、次の社会をつくるためのエネルギーもなくなっちゃう。100〜200年後から見た時に1900〜2000年代は暗黒時代、資源を食い尽くしたひどいヤツらの時代でした、みたいに言われてしまうかもしれない。「飛行機に乗って世界中飛び回っていたらしいけど、俺たち飛行機乗れないじゃん」とか「あんなに石油があったのに、全然、断熱しないでガンガン燃やして使っちゃった」って。

全員:(笑)

菜央:自分たちが幸せに生きるのはもちろん大事だけど、それが次の世代が幸せに生きることにつながらないと、自分たちの幸せがウソになっちゃうんだよね。いろいろな計算があるんだけど、だいたいこれまでの20分の1くらいの資源量で生きていかないと、元本を守って増やしながら利子だけで生きていく社会にはならない。だとしたら、この何十年かにつくられた凝り固まった常識みたいなものは全部、邪魔なんだよね。全部OSを入れ替えて、まったく新しいOSで、20分の1のエネルギーでみんなが超ハッピーな社会をつくらなきゃいけない。

先延ばしにするか、今、手につけるか。それって100年後、200年後から見たらすごく大きな違い。「1900〜2000年代台のヤツらはものすごくたくさん化石燃料を使ったけど、どうやら最後の方に気づいて、とりあえず次の社会を模索したらしい」というところまで持っていかないと、恥ずかしいと思う。

菜衣子:今ここで転換したら、すごく歴史的なことだよね。

竹内:歴史に名を残そう(笑)。

菜央:そのために一人ひとりがDIYするって、すごく基本的なことで、そこからしか始まらない。そういう実験をやる人がどんどん増えるとそこにマーケットが生まれるから、新しい商売が始まるんだよね。そうやって新しい経済をつくっていかなきゃいけない。そんな時代の転換点に今、ぼくたちはいるんじゃないかな。

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電気が来た!

竹内:面白かったのは北九州で、太陽電池の点灯式をやった時のこと。点灯した瞬間にみんなが「イエーイ!」ってなったんだよね。きっと昔「村に電気が来たぞ!」っていう時は、こんなふうに喜んだんだろうなって。

菜央:すごかったですよ。こんなにみんな感動するんだ、って。

ジョニー:ぼくたちも3年くらい前にブータンに行った時に、まだ電気が来ていない最後の村に行って。でも送電線がすぐ近くまで来ていて、若い人たちは電気や西洋文明が来るのをすごく楽しみにしていた。その時に「うらやましいな」と思ったんですよ。ぼくたちはもうすべてが用意されていて、「電気が来るぞ!」みたいな新しい感動がない社会に生きていて。

竹内:北九州の時は「実はすべて用意されていて、それらにぶら下がって生きていたんだ」という自覚がまずあって。だけど(すでにつながっているものを)切れるんだ、もう一回選ぶ権利があるんだということに気づいて、みんな喜んでいたんだと思う。

菜央:単純に電気というエネルギーが自分たちのものになったことに喜んでいるんじゃなく、「自分たちがつくった道具で、自分たちの電気がつくれるんだ」ということ。まったくの0から1をつくれる全能感というのかな。生きていく力を得た!みたいな。

DIY=ひとりひとりが「主人公は自分」の社会へ

菜衣子:私が「暮らしかた冒険家」をやってよかったな、と思ったのは、全部、自分のことになったこと。「どうにもならない」と思うことが、すごく減った。自分たちでやると納得いくまでトコトンできるから精神衛生上は楽だし、社会に対して怒ることがなくなってくるんですよ、だんだん。やることはいっぱい増えて大変だったり、大きなことを言っている夫の不甲斐なさには怒りますけど(笑)

菜央:いろんな分野ごとに、おまかせだったものを自分でやってみる。自分が中心になる、自分が主人公になる。大げさにいえば、ここ20年くらいの社会は、誰かがみんなの人生をプロデュースする社会だったんだと思う。車はこういうの買ったらいいよとか、家は新築で建てなきゃだめだよとか、いい大学に入った方がいいんじゃないの、とか、なんだかんだ言って大手企業に就職でしょ、とか。

だけどDIYとかオフグリッドとか小屋のブームによって「あなたが主役なんだよ」「あなたがほしい社会をつくればいいんだよ」「あなたがほしい暮らしをつくればいいんだよ」と言われた瞬間に、そうだよね!と共感する人が今、すごく増えている。

竹内:今までの、誰かがプロデュースしてくれたものというのが実は誰のものでもなくって、本当にウソっぽいからね。

菜央:みんながもっと自分で食べ物をつくるようになると、状況は変わるような気がする。自分の庭でちょっとした畑をやるとか。食べ物をつくるのって共同作業だし、いろんな人がいろんな役目を果たせる。家も、古民家が余りまくってるし、これから固定資産税の仕組みも変わってくるから、「無料で建物を手に入れる」というのが割と普通のことになっていく。そうするとDIY技術というものもすごく活きてくる。

そうやって、お金中心の社会じゃなく、お金「も」ある社会へ。お金以外の「善意」や「交換」や「つながり」が豊かな社会ができてくると、「経済」という尺度で測った時には弾かれてしまうような、いろんなタイプの人がもっと生きやすくなると思う。

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すでにある資源を活かす、のは楽しい

菜央:ポートランドに行った時、ぼくが泊まっていた畑のある一軒家は、みんなでセルフリノベーションした家だった。そのブロック周辺に住んでいる人たちみんなが仲間で、鶏を飼っている人たちがいっぱいいたり、芝生を剥がして食べられる森にするというのがすごく流行っていたり。

その家には、壁に「リソース・マップ」という地図が貼ってあって、まちのありとあらゆるリソースが描いてあった。たとえば「このおばさんは、実は中国語が喋れる」みたいなことまで。

これまでの20分の1のエネルギーで暮らすには、たぶん身のまわりにある、ありとあらゆる資源を活かすしかない。ゲリラ・ガーデニングとか、公園や空き地でも食べられるものを植えていくとか。ポートランドで面白かったのは、街なかにたくさん木が植わっているんだけど、実の食べられるものが結構ある。でもみんな知らないから、実が落ちて腐っちゃうわけ。それを全部マッピングしてみんなに配って「はい、みんなで食べよう!」みたいな活動まである。お金がない人でもそのマップを持っていれば「いちじくの季節になったな」と採ってきて食べたりできる。そういう果物を、炊き出しの時に配ったりもしている。

たとえば東京だったらヒートアイランドですごく暑いから、南向きのところにハウスを建てるとパパイヤとかバンバン育つらしいの。資源を活かす社会のあり方ってまだまだやり方があって、それを実験しているのがポートランド。日本ではアクセスされずに捨てられる資材とか物とか、資源が山ほどあるよね。

竹内:そういう資源を回すこと自体、始めると面白いよね。

菜央:ポートランドでも、セルフビルドが盛んになった結果、セルフビルド用の窓枠や羊毛の断熱材を売る人みたいな小商いが現れているらしい。

菜衣子:たしかに。ポートランドに行ってみて楽チンだったのは、いま日本では1から100まで全部、自分でやらなきゃいけないようなことがすでにサービスや仕組みとして提供されていたこと。

菜央:タイニーハウスも、パイオニアは1から100まで自分で全部つくっていたけど、今は100までプロにつくってもらう人もいるし、2〜99までの人たちのためのいろいろなサービスが生まれていて。たとえば設計図だけPDFで買うのも盛んで、30ドルから500ドルくらいまでいろいろある。あとはタイニーハウスをつくる人が増えたことで、トレーラーベースだけをつくる会社も何社か出てきて、競争している。そうすると、性能もどんどん良くなって値段も下がってくる。1から100まで自分で全部はできないよ、という人もどんどんやりやすくなっているよね。

オフグリッドって、人間のエネルギーの話

菜衣子:1年間、いろんな話を取り上げてきたOFF-GRD LIFE。やってみて、菜央くんはどうだった?

菜央:「オフグリッド」とか「エネルギー」とか「DIY」とかっていう名前のドアを1年前に開けた時は、その向こう側の風景って、まだぼんやりとしか想像できていなかった。でも1年間やってみて、かなりハッキリしてきたなって。

「オフグリッド」ってやっぱり、大げさかもしれないけど人間讃美というか、人間ひとりひとりが持っているパワーを肯定することなんだな、と思う。

誰にでも実は、すごいクリエイティビティや想像力やそれを実現する力や勇気がある。でも、社会で発揮される機会がなかなかない。OFF-GRID LIFEを通じて出会った人たちからは、やっぱり人間が持っているパワーを実感したし、「そういうパワーがぼくにもあって、あなたにもあるんだよ」ということがすばらしいんだな、ってわかった。

だから「再エネを増やしましょう」とか、そういう小手先の話じゃない。OFF-GRID LIFEって人間のエネルギー、人間のパワーの話だったんだな、というのが、1年間やってみて感じたこと。「自分にも力がある」と思えることが、点灯式の時のみんなの「ワー!」だったんだろうし、楽しい気持ちの源泉だと思う。

菜衣子:うんうん。この後、やっていきたいことは?

菜央:DIYとパーマカルチャーとオフグリッドを組み合わせて、みんながもっと学べる場をつくりたい。たとえば「エンターテイメントも自給してみたらどうなるんだろう」とか。あとは5%でいいから自分で食べ物をつくってみると、人生の意味が変わってくる。きっと、すばらしい人生が始まると思う。今はエネルギーの話、建物の話、社会の仕組みの話、お金の話、というふうに分野ごとにバラバラになっている。でも根っこはひとつだったんだ、というのがこの1年間での発見。その「根っこ」はやっぱり、あなたが主役なんだよ、誰にでもパワーがあるんだよ、あなたにも社会がつくれるんだよ、ってこと。

それが学べる場を、これからもっとたくさんつくっていきたいね。

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