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2015.04.02

暮らしかた冒険家 meets

volume 7世界一有名な地域通貨「イサカアワー」が教えてくれた意外なこと

  • Text伊藤 菜衣子, 池田 秀紀
  • Photo伊藤 菜衣子

〈後編〉暮らしを楽しく快適にする取り組み

かれこれ2年前のこと。2013年、暮らしかた冒険家は「お金」について考えていました。「お金」が無いと生きていけないというけれど本当か?ある程度お金は必要だとしても、お金をたくさん持っている人が必ずしも幸せには見えないのはなぜか?だとしたらお金はいったいどれくらいあれば足りるのか?お金でモノを買うというのは、お金とモノの「交換」に過ぎないのだから、別の手段で交換できればお金は必要ないのでは?交換の原始的な姿には「物々交換」があるが、果たして21世紀となった今、それ以外にはないのだろうか?などなど。 物々交換という原始的な交換。お金による売買という便利な交換。どちらにもメリット・デメリットがある。(いや、物々交換はめんどくさくて現実的ではないという考えが普通かもしれない)そんなとき、「地域通貨」のことを思い出した。よく地域活性化で耳にも目にもするけれどいまいちパッとしないしピンとこなかった地域通貨。実はその間のいいとこどりな存在なのではないか――。そんな仮説を検証するために、「エンデの遺言」にも登場する地域通貨「イサカアワー」で有名なニューヨーク州の片田舎イサカまで、何のアテもなく、ひとっ飛びしてきました。 イサカについて知っていたことは、アイビーリーグのコーネル大学があること、労働でしか買えない自転車屋さんがあるらしいこと、「イサカアワー」、それだけでした。今にして思えば、ずいぶん思い切った旅です。 ですが地域通貨については想定外な結末が...。だけど、代わりの収穫として、ファーマーズマーケット、エコビレッジ、CSA(Community Supported Agriculture)などの想像を超えるスケールの試みたち。そのおもしろさに、考えること、憧れることがたくさん。資本主義、大量消費・大量生産、個人主義が進むアメリカだからこそ、その対極にあるロハスでグリーンでDIYな営み。イサカのツアーレポート、マストチェックです。

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ファーマーズマーケットの存在感

イサカは60年代からヒッピー文化の中心地だったこともあり1973年から始まったファーマーズマーケットは、とにかく会場自体が屋根があり、大きい。毎週末、渋滞ができるほどの大にぎわいだ。屋根の外では、ミュージシャンが演奏し、そのまわりで買ったものを食べたり、くつろいだり。

週末のみ開催で朝から大にぎわい。 #heytour

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m5_130727-30 m5_130727-29 食料品を買いに行く、ということ自体がエンターテイメントになるということ。それが地域経済をまわしたり、コミュニティを形成すること。人々の居場所をつくること。「どこに買いに行くか」というチョイスで、ここまでも暮らしを豊かにする可能性があることを、まざまざと見せつけられた。 m5_130727-27 そして、ここで売っているものは、作っている人から直接手渡しされる。これはただの物ではなくなる瞬間。誰かの時間や苦労やたのしみがぎゅっとつまった物であるための大事な時間。 CSA(Community Supported Agriculture) ファーマーズマーケットで、CSAによる農園を経営している農家さんに出会いました。CSAとは、消費者が年間費を前払いし、豊作・不作などのリスクを生産者と分担する仕組みです。消費者も農作業に参加することになっていたり、農家さんによってルールがいろいろ違うようですが、食べるための責任を農家任せにせず、消費者も積極的に参加することができるそうです。

消費者は、毎週末農作物を取りに行きます。納屋では、山積みになった野菜の横に、その週の出来高を世帯数で割り、持って行ってよい量が掲示されているそうです。取り分の野菜が多すぎる場合は、そのための箱に野菜を入れ、野菜がたくさんほしいひとは、その箱から多く持って行く、そんなルールもありました。

働かないと買えない自転車屋さん

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イサカに行ったもうひとつの理由は、お金で買えない自転車屋さんの噂を確かめるためでした。貧富の差によって自転車盗難が絶えなかったイサカで、お金がなくてもカッコいい自転車を手に入れられる場所。運営しているNPOはお金と自転車の寄付で成り立っていて、自転車がほしい人は、ここで自転車のメンテナンスについて学び、働き、一定の「時間」がたまると、在庫のなかの自転車を組み合わせて、世界にひとつだけの自分のカスタマイズ自転車を手に入れることができるのです。

自転車そのものが手に入るだけではなく、メンテナンスのノウハウを学ぶことによって自転車も長持ちしたり、愛着もわく。そしてそういう“同じような誰か”の自転車を盗むことができなくなる、という教育でもあり、貧困克服のプログラムでもあるのです。たかが自転車、されど自転車。自転車ひとつから、街の治安を良くしていく。その視点に、ただただ脱帽です。

自転車盗難多発の原因の貧困克服のためにすれば誰でも自転車を持てるようにした。 #heytour

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イサカのバイク屋きた! #heytour

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エコビレッジ

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イサカはエコビレッジでも有名な場所でした。
1991年から構想がスタートし、およそ30世帯からなる居住区が1997年、2004年、2013年と3つでき、100世帯ほどが暮らしています。71ヘクタールの敷地には2つのオーガニックファーム、3つの大きなキッチンがある共同スペース、小さな森や泳げる池、散歩道があり、とにかく景色も環境もすばらしいのです。

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居住区を作るたびに、住みたい人たちが数年かけて、コンセプトやルール、家の仕様などを考えるミーティングが定期的に開催され、膨大な時間と知恵と希望を持ち寄り、合意形成し、居住区をつくっていくそうです。

雨水を貯めるタンクが地下に。鳥が走れる農園も。 #heytour

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エコビレッジの朝。 #heytour

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うわーーなんだこのビューは。。。 #heytour

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ニューヨークシティからのリタイアしたひとたち、大学の先生など、イサカという土地柄だからこそな人たちが集まっているなぁ、と。ひと言でいうと、とんでもなく「意識が高いひとたち」の集まりです。エコだから慎ましく、お金をかけずに、と思いがちだが、ここには資本主義と意識と知識がぎゅうぎゅうに詰まっていました。

とにかく、定期的に集まって話し合いがあり、問題があれば徹底的に話合う。誰かが偉いわけでもなく、民主的な合意形成の姿勢が、この場所をつくっていると感じました。

敷地内のオーガニックファームは、鶏が走り回れるように工夫され鶏糞がいい肥料になるようにデザインされていて、のどかで、本質的で、おいしそうでした。
コンポストもあり、生ゴミを堆肥に利用。このコンポストを維持する担当など、あらゆることに担当者がいて、住人たちが、何かしらの役割を担っていました。ただなにもせずにお客さんのようには暮らせないけれど、だからこそだれかと繋がっていることや自分の存在意義を感じることができるのかもしれません。

エコビレッジ・イサカとは

グリーンビルディング

わたしが高校生のとき、アメリカ留学をして驚いたのは、お父さんたちの自宅DIYのスキル。あらゆることは自分たちでつくれるんだ!そんな背中を、イサカでもたくさん拝んできました。

オフグリッドハウスきた! #heytour

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#heytour

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#heytour パッシブソーラー

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#heytour この家やばい。

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#heytour アースシップ型エコハウス。

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廊下が温室になってる合理性。 #heytour

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環境負荷が低い家を年に1回公開し、スタンプラリーのように回れるイベント「Green Building Tour」があり、家の性能やあり方への感心はとても高い。「上下水道を引くのが高すぎたから」とインフラすべてがオフグリッドな家、タイヤや空瓶と泥で完全DIYしたアースシップ型の家、電力を完全自給する家。いろんな挑戦とトライ&エラーが渦巻いていました。

まとめ

世界一有名な地域通貨「イサカアワー」を見に、イサカまで行ったのに、「イサカアワー」はもう廃れていたという大事件。
とはいえ、大切なことは、お金のあり方そのものではなく、ひとのつながりを見つめなおし、作りだし、深めていくこと。そのためのたくさんの事業や暮らしかたがイサカにはたくさんあって、もはや「地域通貨」がなくとも、その目的を達成しているようにも見えました。

「お金」をみなおす、というのは通過点であって、目的ではない。そんなあたりまえのことを教えてくれる旅でした。繋がりかたを見直すと、暮らしはもっともっとたのしくなる。今回オフグリッドの先進国を見てきて、その思いが強くなったのでした。