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2014.08.25

暮らしかた冒険家 meets

volume 1竹内昌義×森みわ 「ガマンしない」に貪欲な家

  • Text石神 夏希
  • Photo池田 秀紀

第六回|「脱ぎたくなる家」「生まれる家」は世界基準の「いい家」

オフグリッドの暮らしに挑戦している「暮らしかた冒険家」が、『図解 エコハウス』の著書である建築家の竹内昌義さん(みかんぐみ)と森みわさん(KEY ARCHITECTS/一般社団法人パッシブハウス・ジャパン)を訪ね、エコハウスやパッシブハウスについてお話を伺います。 総電力の34%を占めると言われる住宅の冷暖房。家を見つめ直すことで、見えてくる、エネルギーのこと、社会のこと、暮らしのこと。さまざまな視点から、「ガマンしない」に貪欲な家のヒントを探します。
全八回に渡る「「ガマンしない」に貪欲な家」をめぐる対談。第六回は、家が暮らす人に及ぼす影響の話です。家の中で熱中症、気温差による脳卒中など、「人が死んでしまう家」に住む現代の日本人。しかし、森さんはパッシブハウスは「生まれる家」だと言います。

脱ぎたくなる家、生まれる家

2012年には、ご自身が住む鎌倉の賃貸住宅を実験的に省エネ改修した森さん。築約30年の鉄筋コンクリート造。大家さんと交渉の末、改修費を自己負担する代わりに家賃を大幅に下げてもらい、10年後には現状復帰なしで引き渡す10年間の定期借家契約を結びました。
改修前はとても寒く、どうしようもないことにイライラしては夫婦喧嘩を繰り返していた、と振り返ります。

大町タウンハウス(2012年)は賃貸住宅の改修プロジェクト。森さん自身が家族と住み、「日本で一番快適な賃貸住宅」と自負する自宅でもある(写真:KEY ARCHITECTS)

大町タウンハウス(2012年)は賃貸住宅の改修プロジェクト。森さん自身が家族と住み、「日本で一番快適な賃貸住宅」と自負する自宅でもある(写真:KEY ARCHITECTS)

竹内:森さんは、「私が夫婦喧嘩するのは家が寒いからだ!」と言い切ったんですよ(笑)。

森:日本人だと「これが普通」と納得してしまいがちですが、私の夫はドイツ人。ドイツでは、暖房のついていない家や、室温を20℃にすることができない家を売ったり貸したりしたら、裁判で訴えられて、負けてしまうんです。

ドイツでは訴えられるような寒さも「がまん」してしまう人の多い日本では、年間にヒートショックで亡くなる人の数が1万7千人。かたや交通事故で亡くなる人が年間4千人。外より家の中のほうが死ぬ危険性が高い、森さんの言葉を借りれば「狂気の家」なのです。

森:朝、脱衣室の気温が16℃だと言ったら、ドイツの建築家が「ドイツでは、そんな家だったら奥さんに逃げられちゃうよ」って。でも、日本の奥さんはどこに逃げても同じ状況。日本でも、世界基準の「いい家」をつくりたい。私は、「脱ぎたくなる家」と言っています(笑)。

たとえば、お子さんが生まれつき喘息で、しょっちゅう入院していたという、あるお施主さん。パッシブハウスに引っ越してからは発作が起きなくなり、空気清浄機や加湿器の出番もなくなったそうです。それだけでもいいお話なのですが、もうひとつ嬉しいことが。

森:建てるとき、これ以上産まないからと、子供部屋は小さくしたんです。ところが子どもの喘息がよくなったら奥さんも楽になって、色々なことがうまく回るようになって。1〜2年経ったら「3人目が生まれます」と。最初と話が違うのですが(笑)そういうことが起きる家って素敵だな、って。

他にも「子宝には恵まれないんです」と、こじんまりした家を建てられたご夫婦に子どもが生まれたことも。森さんや、森さんと共通する理念を持つ建築家のお施主さんには、パッシブハウスなど高性能な家で暮らし始めたら子どもができた、というケースがとても多いのだそう。

森:パッシブハウスは(ヒートショックで)「死なない家」でもあるけど、「生まれる家」でもあるんです。

物質的に非常に恵まれた社会で生きる私たちは普段、「家は命を守るもの」だということを、忘れてしまってはいないでしょうか。明確な関連性が示されているわけではありませんが、もしもパッシブハウスに移ることで子どもが生まれたのなら、生まれなかった原因のひとつは以前に住んでいた「家」にあったのでは、とつい考えたくなります。
命の価値は、お金でははかれない。エコハウス/パッシブハウスは、お金はもちろん何ものにもかえがたい豊かさを生み出し続ける「金の卵」なのかもしれません。

つづく